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何が怖い? 13

Author: 花室 芽苳
last update Last Updated: 2025-07-08 22:46:23

 私がシートベルトを付けると、御堂はゆっくりと車を発進させる。黒なんていかにも彼らしい、それに内装も落ち着いた感じだった。

 御堂は私に何も言わず、ウインカーを出して左に曲がりそのまま車を走らせる。御堂は知らないのかもしれないけれど、私のアパートとは逆方向へと向かって行くことを不安に感じてしまう。

「……ねえ、どこまで行くの?」

 車内で無言のままの御堂に尋ねる。あのままでは人目に付くからと乗り込んだけれど、喋らない御堂を見て今更ながらに後悔してる。

「俺の部屋」

「御堂の……!? 冗談はやめてよ、私が素直についていくと思っているの?」

 会社で二人きりになる度に御堂は勝手に触れてくるのに、ノコノコとのん気に彼の部屋になんて行けるわけがない。

「紗綾があの場所では話したくなさそうにしていたから、移動してやったんだろうが。これ以上、我が儘を聞いてやるつもりはない」

 我が儘ですって? 誰だって御堂みたいに図太い神経で生きている訳じゃないのよ。

 私が何事もなく平穏に過ごしたいから、御堂と一緒の所を見られたくないと思うくらい別にいいでしょう?

「だからって貴方の部屋じゃなくても……」

「落ち着いてじっくり話をしたいからな。俺の部屋が嫌なら、今からホテルを取っても構わない。さあ紗綾、どちらか好きな方を選べ」

 じっくりと二人で何を話すっていうのよ? 私は話すことなんてないのに。

 大体、そんなのどちらを選んでも何も変わらないじゃない! キッと睨むとニヤリと勝ったような笑みで私の答えを待つ御堂。

「……あなたの部屋で、いいわよっ!」

 結局、今回も御堂の思い通りになってしまうのね。

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    「確かに逃げたかったけれど、御堂があんな言い方するから……」 それでも、御堂が一歩進むごとに私は一歩後退してしまう。それでもあっという間に壁に追い詰められて、私の逃げ場なんてなくなってしまうのだけど。「なぜそんなに怯えるんだか、紗綾は俺の何がそんなに怖い?」 ……怖い? そうよ、私は御堂がとても怖い。  私の今までを全部壊してしまいそうな御堂の強さと、私の心も身体も狂わせようとする貴方の冷たい熱が。「……お願い御堂、私に触れないで」 今にも私の頬に触れそうな御堂の右手。でもそれを拒否しようとする私の声はとても弱弱しい。  私の言葉を無視して触れた御堂の冷たい指先。でもふと横井さんのさっきの言葉を思い出した。 ――もしかしたら、今も誰かに見られていたりする? 私は思わず御堂の手を払い、キョロキョロとあたりを見回した。そんな私を見て御堂は「チッ……」っと、小さく舌打ちをする。「……紗綾、お前電車通勤だよな? デスクから荷物を取って来て、駐車場の入り口で待ってろ」 それだけを早口で言うと、御堂はさっさと休憩室から出て行ってしまう。それにしても駐車場って……?  私は御堂に言われた通りバッグを持って駐車場へ。するとすぐに一台の黒い乗用車が私の前に止まった。「乗れ、紗綾」 助手席の窓を開けて、運転席に乗ったままの御堂が私にそう命令する。  ……少しだけ躊躇ったが、ここでモタモタすればまた他の社員に見られる可能性もある。私はそう考えて、急いで彼の車の助手席に乗り込んだ。

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    「……あら、こっちも可愛い反応? おっと、宮園さんにファイル渡して来なきゃいけないんでした」 私まで揶揄い始めた横井さんを横目で睨むと、彼女はファイルを持ってそそくさと席を立って行ってしまった。 そんな横井さんに戻ってきたら仕事をいつもの倍、渡してしまおうかなどと考える。 結局そんなことは出来るはずもなく、いつも通りの量で彼女は今日の仕事を終え帰っていった。私は残業を少しだけしてから時計を見ると、そろそろ昨日と同じ時刻。 ……さあ、どうする? 待っている御堂に所に、素直に行った方がいいのだろうか? 御堂が最後に言った言葉が、私の頭の中で何度も繰り返される。【臆病な長松 紗綾のまま――】 ……ねえ、御堂。今の私は貴方から見たら臆病なの? 私はただ、身勝手な恋愛感情であの時のように誰かを傷つけたくないだけなのに。「御堂なんか、今の私の事を何も知らないくせに……」 そう思ったら少し悔しくなった。御堂から本当は逃げたいけれど、このまま言われっぱなしで負けたくはない。 私は拳を固く握って、階段を上りそのまま休憩室へと歩いていく。部屋の扉を開くと、窓際の席で御堂は座って煙草を吸っていた。「煙草……吸うのね?」「たまに、だけどな。逃げずにちゃんと来れたな、いい子だ紗綾」 御堂は灰皿に煙草を押し付けて消すと、立ち上がりゆっくりと私に近付いてくる。

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    「それはそう、だけれど……」 横井さんの言う事は間違っていない。私は誰かに恋愛をするなと言われてるわけじゃない、勝手に自分でそう決めているだけだ。「そんな主任には、そのかたーい考えをぶち壊してガンガン引っ張ってくれるような人が現れてくれたら……いいですよねぇ?」 そう言ってチラリと御堂に目を向けてみせる。横井さんは……本当に私達の事をどこまで気付いているのだろう? 「そう……なのかしらね? 自分ではちょっと、分からないわ」 彼女の言葉に、私は微笑んで曖昧な返事しか出来ない。だって私は今の自分を壊したくなんてない、厚い壁を作って精一杯守っているのに。「でも、気を付けた方がいいですよ? 御堂さん狙っている女子多いですから、主任はちょっと目を付けられてます」 横井さんは周りをキョロリと見てから、小さな声で私にそのことを教えてくれた。  ……多分、御堂とのやり取りを他の女子社員に見られていたのだろう。「ありがとう、横井さん」 「いいえ~。さっきからこっちを心配そうに見てますよ、御堂さんが。フフフ、怖ーい顔して、意外と可愛いんですね」 横井さんに言われて御堂を見ると、確かに彼はこっちを見ている。御堂は本当に私の事をそんなに心配しているの? そう考えると、落ち着いたはずの顔がまた熱くなっていくから困る。

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